蘭陵王SS ”虎の巻”
2015年 12月 15日
こんばんは
つたなき蘭陵王SSも今回で21話目となりました。
まったくどうしようもないくらいのめり込んでます。
この中毒症状は雪舞のおばあ様・楊林氏でも治せません。
今回はR-レベルなので、意に添わない方はどうぞスルーしてください。
”虎の巻”
婚儀を挙げて半月あまりが過ぎたが
蘭陵王の正妃である楊雪舞は己が得た蘭陵王妃という立場には、いまだ
馴染めずにいた。
唯一頼りとしたいはずの夫蘭陵王は、新婚早々から皇帝に国の財政がかなり緊迫していることを相談され、その対策に連日奔走しており、ここ二日ばかりなどは、帰宅も深夜を過ぎる有様
疲れて帰ってくる夫に、家内の雑事で煩わせることなど、けしてしたくない雪舞だった。
屋敷内のことは永年執事をしている王家令と侍女頭の小翠にほとんど任せることも出来たのだが、王族間の付き合いだけは正妃である雪舞自身の大きな役割であった。
民から天女様と崇められている雪舞であったが、元々は秘境の地、白山村の出、それも謎多き巫族の娘と聞いては、何ゆえそのような身分卑しきの娘が、自分達と同じ王族の嫁となりえたのか?気位高き王族の夫人たちには、そんな雪舞がどうにもこうにも気に入らなかった。
雪舞が女ばかりの集まりに呼ばれると、必ずといっていいほど王族特有の習慣を持ちだされて、不慣れな雪舞に恥を欠かせようと、幾人かが、あらゆる意地悪を仕掛けて来るのだ。
それを雪舞は、持ち前の聡明さと、ある秘策を用いて、どうにかこうにか切り抜けていた。
だが集まりに出かけて行くときには、社交の場ゆえ毎回どうしても、お妃教育の日に結われたへんてこりんな髪型を結わねばならず、それに付ける髪飾りの重さと共に、幾重にも重ね着る堅苦しい装束にも苦労させられる。
そんな社交の場になど、出かけたくはなかったが、高家の第四王子であり、尚書令という夫の立場を考えれば、けして夫に恥をかかせられない。
今宵もやっと社交の場より蘭陵王府に帰宅し、へんてこりんな重い髪をほどいて、衣を着替えると、どっと疲れが身体全体に押し寄せて来る・・・
いつの間にか書斎の文机に顔を伏せて眠ってしまっていた。
そして遅く帰宅をした夫にも気付かぬほど、深い寝息をたてて眠り込んでいる。
『奥様は今日も大変だったのです、李夫人など、わざと奥様の知らない王族の風習ばかり持ち出して来ては、それをわざと奥様に応えさせようとなさるのです。、まこといけ好かぬ御夫人です』
『李夫人とは、延宗のところのあの正妃のことか???』
『さようです、侍女のワタクシが殿下にこのようなことを申仕上げるのは、いけないことだと重々承知しておりますが、あまりに奥様がお気の毒でおかわいそうで・・
本来ならば兄嫁である雪舞様をかばうのが筋というものですわ、弟嫁であるお方が、かばうどころか先導きって意地悪ばかりをされるのですよ、ホントいけすかないったらありゃしない・・・』
(あのような性根の方だから延宗様が、側室をたくさん娶られるのだわと小翠は思った)
『それで今日の雪舞はどう応えたのだ』
『それが、奥様は王室の風習はまったく知らないお方のはずですのに、迷いもくその問いにすらすらとお答えになられたのですよ。、そればかりか、李夫人も知らぬ細かな知識までお応えになられたのです・・
他の御夫人方もそれはそれは大層驚かれてました。本当に胸がスーといたしました。
でも何故?奥様はそんなに詳しく王族の風習を知っておられたのでしょうか???
殿下が直じきに奥様にお伝えなされたのですか?』
『いや延宗ならばまだしも、ほとんど戦場(いくさば)にいたわたしだ、王族の細かき風習など知る由もない・・・』
長恭は思った、雪舞がいくら博識ある才女であっても、高家独特の風習など書物で調べようもないはず、延宗にでも聞いたのだろうか?いやいや詳しいとはいっても王族の女人独特の風習だ、・・・いくら延宗がくわしいとはいっても限度ある。』
『あ~そうか、おばあ様だ・・』
『そうですわ!、きっとそうです、でも殿下、皇太后様が奥様と会われたのは婚儀の日だけです、それもほんの半時だけですよ・・』
『一刻だろうと半時だろうと聡明な雪舞なら、すぐに会得できたはずだ、慣れない王家の暮らしで身体でもこわぬかと懸念しておったが無用な心配であった、それを聞いて安堵した・・』
そんな二人から心配されていた新妻は、夫に抱きかかえられ眠ったまま夫婦の閨へと運ばれていった。
雪舞が先ほどまで顔を埋めていた文机の鍵のついた引き出しには皇太后自らが綴った書物が二帖(冊)収められていた。
その一帖には高家の慣わしや風習と共に、一族の系譜や家臣の功績までもが事細やかに記されてあった。
そしてもう一帖は雪舞が初めて床入りする前に、必ず読んでおくようにと皇太后に特に念を押され手渡されたものだった。
そこに書かれていたのは初夜への心得えや、無事すませた後の始末までもがていねいに記されてあった。
そして睦事の種類やら、子を為すための秘策まで記され、見るも恥ずかしき挿絵までが描かれてあった。
斉の楚であった夫の高甚との間に戦乱のさなかに6人の王子と2人の公主を産み育てた皇太后の知識には、なによりの重みがあった。
眠ったままの雪舞が着ている帯に、なにやら小さき鍵のような飾り物?が結ばれている。
それを見つけた長恭は
『なんだ?この鍵のような飾り物は???まったく王妃となっても、君は変わらぬな
わたしはそんな君が好きなのだが・・』 と寝顔の新妻にむけ苦笑する長恭であった。
※虎の巻とは・・門外不出の秘伝が書かれている書のこと
転じて教科書などに対する解説書のこと示す。
古代中国の一つである『六韜』のうちのひとつである『虎韜』から
虎の巻となった。